固体の比熱

固体の性質のひとつとして比熱について考えてみます。ここでは簡単のため、固体元素を取り上げます。
下の表にあるように、室温(25℃)でのグラム比熱は元素によって0.1 (J/gK) から3.6 (J/gK) までさまざまな値をとっており、一見、何の規則性もないように見えます。


    元素名            グラム比熱(J/gK)
     Al
     Ag
     As
     Au
     Be
     C
     Ca
     Cd
     Co
     Cs
     Cu
     Fe
     Ge
     Ir 
     K
     Li 
     Mg
     Mo
     Na
     Ni
     Pb
     Pt
     Rb
     Se
     Si
     Ta
     Ti
     V
     W
     Zr

 注) Cはダイヤモンド
       0.902   
       0.236   
       0.329   
       0.128   
       1.824   
       0.513   
       0.653   
       0.235   
       0.423   
       0.058   
       0.385   
       0.448   
       0.322   
       0.130   
       0.766   
       3.552   
       1.025   
       0.248   
       1.227   
       0.439   
       0.128   
       0.136   
       0.361   
       0.322   
       0.712   
       0.140   
       0.522   
       0.490   
       0.132   
       0.276   


飯田修一他編「新編物理定数表」
 朝倉書店(1978) より


しかし、これを1モル当たりの比熱に換算すると、下表のように大半の固体の比熱が25 (J/molK) 程度の値をもつことが分かります。この例外を右に*で示してあります。


  元素名     モル比熱(J/molK)
   Al
   Ag
   As
   Au
   Be
   C
   Ca
   Cd
   Co
   Cs
   Cu
   Fe
   Ge
   Ir  
   K
   Li
   Mg
   Mo
   Na
   Ni
   Pb
   Pt
   Rb
   Se
   Si
   Ta
   Ti
   V
   W
   Zr
      24.3
      25.5
      24.6
      25.2
      16.4      *
      6.16      *
      26.2
      26.3
      25.0
      32.2      *
      24.5
      25.0
      23.4      *
      25.0
      30.0      *
      24.7
      24.9
      23.8
      28.2      *
      25.8
      26.4
      26.6
      30.9      *
      25.4
      20.0      *
      25.3
      25.0
      25.0
      24.3
      25.2


「ほとんどの固体でモル比熱は25 (J/molK) 程度の値を持つ」という事実は「原子数が同じならば比熱も同じ」すなわち「原子の種類によらず、原子一個当たりの比熱への寄与は同じで約4.2×10-23 (J/K) 」ということを表しているように見えます。

この妥当性を元素ではなく化合物で確かめてみます。
塩化ナトリウム (NaCl) を例に取ると、NaCl1モル (58.5グラム) 中にNa、Clの全原子(全イオン)は2モルあります。以上のことからグラム比熱は
25×2/58.5 = 0.855 (J/gK)
と予測されます。これに対して、室温での測定値は0.8548 (J/gK) とよく一致しています。これほどの良い一致は偶然に過ぎませんが、いずれにしても単原子当たり約25 (J/molK) という比熱の値は固体一般について成立しそうです。

さらに、理想単原子気体のモル定積比熱が3/2R、理想二原子分子気体のモル定積比熱が5/2R(ここでRは気体定数)であり、25という値はRのほぼ3倍であることを考えあわせると、単原子固体のモル比熱が3R〜25 (J/molK) であるのは意味があり、理想気体の比熱を気体分子運動論の立場から理解できたように、固体の比熱も微視的な原子、イオン、電子といった固体の構成物の振舞いから理解することができそうに思えてきます。

一方、上の表で*で示した元素、すなわち固体比熱が25からはずれるものを整理すると、
1) Na K Rb Cs
2) C Si Ge
3) Be
となり、1)は周期律表1A属のアルカリ金属結晶、2)は4B属の共有結合結晶に分類されます。このことから化学結合を考慮に入れることにより、固体の比熱はより精密に議論されることが期待されます。